「宇部楠クリーン村」の新しい魅力と価値 ~本当の「幸せ」や「豊かさ」って何ですか?~


「アントレプレナー基礎」という授業の一環で、7名の山口大学生が楠クリーン村の仕事を体験しました。
この授業を担当している林先生が、授業に至るまでの経緯と実施した感想を原稿にまとめて下さいました!
ご一読下さい。

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 大学しか知らない一介の大学教員が縁もゆかりもない山口県に赴任して、ひょんなことから地域人材育成プログラム(YFL育成プログラム)の立ち上げに関わることとなった。

 最初は、カリキュラムマネジメントの仕事がしたくて、机上の空論を書類に書いたり、ポンチ絵をデザインしたりすることに興じる自分がいた。2015年、文部科学省の補助金事業(COC+事業)に採択されて、自分で授業を組み立てるワクワクするような仕事が目の前に広がったが、その一方で、扱うテーマが「サービスラーニング」だったり、「アントレプレナーシップ」だったり、何をどうしたらよいのか、自分の脳ミソの引き出しをどれだけ開いても何も答えが出てこないことは明白であった。


 こういう時の私の常套手段として、「人に頼るしかない」と思い立って、色々なアンテナを張り巡らしてみた。そんな中で、山口県にゆかりのある「鋭く尖ったユニークな大人」や「非日常的で不思議な空間」を紹介してくれたのが、田立(近藤)紀子さんであった。(※学生耕作隊の初代理事長。今は4代目)
 彼女からの紹介のおかげで、アントレプレナーシップ教育のフィールドとして「周防大島」と「宇部楠クリーン村」に白羽の矢を立てる決心をした。しかし、「周防大島」をフィールドにした授業は、同島在住の教育コーディネーター 大野圭司さんのご尽力で、すぐに立案・実現に漕ぎつけることができたが、「宇部楠クリーン村」をフィールドにした授業づくりには、実に約4年間の歳月を要した。

 それはなぜなのか?
 2016年の春か夏だったと記憶しているが、初めて、宇部楠クリーン村に足を踏み入れたとき、大学生が学ぶフィールドとしての魅力を感じ取ることができたが、私にも感じられた「非日常性」に、山口県の大学生が本当に魅力を感じてくれるのか、その後、ずっと不安を抱き続ける日々が続いた。

 2016年度から開講した講義『地域協働型知識創造論』において、奥谷京子先生や高田夏実理事長に登壇いただく機会を設けながら、学生耕作隊の活動紹介に対する大学生の反応を窺うことにした。奥谷先生や高田さんのゲスト講義終了後、大学生が講師に近寄って話しかける積極的な様子に好感触を持ち、2017年度末に、思い切って、宇部楠クリーン村ワンデーインターンを企画してみることにした。

 無邪気に笑顔で耕作や養鶏作業を体験する大学生の姿に、私自身、非常に勇気づけられた。その後、山口県の大学生にとっては縁遠いと思われた宇部楠クリーン村に自力で足を運ぶ山口大学工学部リノベ部の学生たちを皮切りに、2週間程度のインターンを体験する教育学部や医学部保健学科の学生が現れた。
 特に、昨年から今年にかけて自主的にインターンに足を運ぶ学生の声や文章を見聞すると、「時代が変わってきたな」という思いが強くなった。
 
 最近の日本社会を見ていると、「24時間営業の短縮問題」「スポーツ業界の権力や暴力問題」、さらには、「マスコミによる他愛のないリーク合戦や誹謗中傷」など、「人としての幸せ」や「生活の豊かさ」を見失い、それらを肌で感じ取ることが本当に難しくなってきているように思えてならない。そして、このような息苦しさが大人だけでなく、子供たちにも押し寄せてきているのではないだろうか。
 つい最近、誰かに「笑顔でいることが何より大切だよ」と言われたことがある。自然に笑顔でいられる幸福感や豊かさを体で感じる経験こそが非常に大切なのかもしれない。そのような経験を提供する、そのような経験を得るということ自体、あまりにも本末転倒なように思われるが、現実には致し方ないことだろう。そう考えたとき、「宇部楠クリーン村」の存在、そこで得られる体験は、「人としての生き方」を知る、気づく絶好のオアシスなのだと思う。


私自身、色々な周りの大人の協力、それから、大学生の活動に触れる中で、そのような思いに至るとともに、YFL育成プログラムにおける「アントレプレナー基礎(宇部楠)」という授業科目に対して自信を持って大学生に提供できる気持ちになった。
今年度(2019年度)、多数の申込から抽選で選ばれた7名の大学生が1011月にかけての3日間プログラムをしっかりと受講し、何らかの気づきを得て、次なる成長に繋げてくれる手ごたえを得たことは感慨無量であった。そして、最終日、受講生と宇部楠クリーン村スタッフとの振り返り会の中で新たな気づきを得ることができた。

学習者には、「自主性を既に備えた学習者」と「自主性を育ててあげる必要がある学習者」の2種類がいると思う。大学教員の立場として、「自主性を既に備えた学習者」には軽く背中を押してあげる程度で良いが、「自主性を育ててあげる必要がある学習者」には次なる一歩に繋がるようにしっかりと伴走してあげる必要がある。宇部楠クリーン村に足を踏み入れるには、一定の勇気がいると思うが、少しでも行ってみたい、体験してみたいと手を挙げる大学生を導き、その子が「自主性」「幸福感」「豊かさへの実感」を育むことを支援していきたい。
 
 最後に一言。宇部楠クリーン村の進むべき方向性として、日本の将来を担う子供たちや若者たちの体験学習の場としての機能を一層発揮し、「人づくり」に貢献することを切に期待したい。そうすることで、宇部楠クリーン村の新しい魅力や価値が高まるはずである。
 いつもありがとうございます。
 
 
 山口大学 大学教育機構 大学教育センター准教授
 林   透


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